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「知らない街に、夜ついた」喜悦旅游#20 和歌山


 わたしと盛田さんは疲れ切っていた。

 

 その日は早朝に神戸を出発し、長距離運転で仕事先に向かった。幸い天気には恵まれ、すべては順調に進んだものの、気がつけば日暮れ。宵闇の中、さらにここから1時間半ほど走った、見知らぬ町に向かっていく。


 仕事の進行状況によって、どこの町に泊まるのかわからないこともある。宿も何もかも決めないまま、ただひたすらに県境を走った。食事をとるタイミングも難しい日だったため、何か温かいものが食べたい。その思いだけはハッキリしていた。


 県道を抜け、国道を走り、高速に乗って、出口を降りる。ここに来てようやく宿を決めた。結婚式場や会議場のある、昔ながらの県庁所在地の宿だ。フロントの男性たちは、パリッとスーツを着ている。シャンデリアとソファー、そして看板の文字に昭和の懐かしさを感じた。

 

 荷物を下ろすと安心するのか、どっと疲れが出て、お腹もギュウっと鳴る。とにかく近いところで食べよう。盛田さんが見つけた、宿のすぐ近くの店に向かった。



 この街は、ラーメンが有名らしい。なんとなく、それは聞いたことがあった。しかし、どういうラーメンなのかは知らない。街の何もかもを、ほんとうに知らないまま訪れ、暖簾をくぐる。


 「いらっしゃい」元気な声が出迎えてくれる。濃厚な香りが、わたしたちを包み込む。



 メニューはなんともシンプル、かつ魅惑的だった。チャーシューが多めに乗った特製中華そばと、味付け煮玉子を頼むことにする。


 小さな店内に続々来客する、地元の人たち。流れるように注文する声が、背後に聞こえる。「すし売り切れましたー」と響く声。どうやら、すしも人気のようだ。そこかしこで、美味しそうにすする音。早く食べたい。


 思ったより早く、その時は来た!



 スープを一口。濃厚な匂いなのに、なぜか後口がさっぱりとしていて飲みやすい。元気をチャージできる味わいだ。柔らかく、とろとろで丁度いいチャーシュー。可憐なナルトがアクセントとなり、麺はスープによくからむ。メンマもシャキシャキと美味しい。


 知らない街の食が、今日もわたしたちの体を作っていく。体がどんどん、復活していく。


 


 知らない街に 夜ついた

 灯りが招く 腹が鳴る

 五臓六腑に あたたかく

 人心地つく 春の宵


 和歌山、すっかり好きになってしまった。


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