喜悦旅游【隠岐編】序章 大山・生まれ変わりの産屋

2023年10月の終わり。
山陰の朝は、早くも肌寒い。
盛田さんとわたしは、数日前からここ、鳥取県大山町に滞在していた。
大山町長田を中心に毎年開催されている、「イトナミダイセン藝術祭」に参加するためだ。
同藝術祭は、数千人規模の動員を誇る総合アートフェスティバルで、内容も絵画、映像、合唱、ダンス、舞台、インスタレーション、体験型企画など、多岐に渡る。

(作品制作中の風景。産屋の前に写っているのは盛田。Photo by Nanako Ijichi)
2023年度は、オープニング企画「ウガヤフキアヘズ→ウガヤフキアフ」の作品デザイン担当として、参加した。
日本古代神話に登場する「産屋」をイメージしたインスタレーションで、竹を組んだ土台にさまざまな植物を葺いて制作したものだ。
アートディレクター、大下志穂さんとの対話の中でアイデアが生まれ、アーティスト島津友美さんの指揮のもと、多くの方が関わって、同藝術祭2022年度の大型作品「大山ウッドサークル」内に立ち上がった。

(産屋から「生まれ出た」瞬間の大下志穂さん。Photo by Satoshi Morita)
コンセプトは、「産屋」という名前の通り、「あたらしく生まれ変わる体験」を意識するインスタレーション。
「生まれぐち」と名付けた戸から、たくさんの人が「あたらしい自分」をイメージして出ていった。
もちろん、わたしも、あたらしい世界をイメージし、作品から生まれ出てみた。
ー今にして思えば、その瞬間が、今回の旅が動き出した瞬間だったのかも知れないー

(この「産屋」のなかで、Raymmaはセラピーも行った。Photo by Satoshi Morita)
山陰の肌寒い朝に、話を戻そう。
冷たい水で顔を洗い、素早く身支度をする。
荷物を全て車に積み込む。
隠岐に行くには、まず、島根県の七類港に行かねばならない。
旅の道連れ、盛田さんとは、今回はまだ詳しい打ち合わせをしていなかった。
一体、どんな旅になるのだろうか。
朝日の中、わたしたちは大山を出発した。

(Photo by Satoshi Morita)
大山から七類は、車で約1時間弱。そこから隠岐汽船のフェリーに2時間半弱乗ると、最初の目的地「西郷港」だ。
西郷港は、隠岐4島のうち「島後(どうご)」の玄関口。
島後は隠岐最大の島で、空港があるのも、こちらだ。
古事記の国産み伝説では、日本で3番目にできたとされる島。
そのためか、神社の数も隠岐全体で100をゆうに越すとされる。
伝説だけではなく、現実的にも隠岐はとても古い歴史を持っている。
地質学的なストーリーは、なんと2億5000年前までたどれるというのだ。
巨大な「パンゲア大陸」の一部だった隠岐が、火山活動や気候変動の影響を受けて、現在の位置に定まったのが40万年前。
縄文時代をも、はるかにさかのぼる悠久の歴史がここにある。
盛田さんが運転する車の中で、わたしは前回の旅に思いを馳せていた。
この夏にも、わたしは隠岐を訪れていたのだ。

(左から、大下志穂さん、中橋久美子さん、薮田佳奈さん Photo by Nanako Ijichi)
前述の「イトナミダイセン藝術祭」アートディレクター大下志穂さん、アートコーディネーター薮田佳奈さん、出雲のセラピスト中橋久美子さん、そしてわたしの4人旅。
隠岐が持つ自然のうつくしさと、原始信仰のあり方を体感するような、いい旅だった。
隠岐の見どころは、とほうもなく多い。
前回と入口は同じでも、まったく見えるものは違うのだろう。
そんなことを考えていたら、あっという間に七類港に着いた。
株式会社RaymmaのWEBマガジン「喜悦旅游」は、伊地知奈々子の文・盛田諭史の写真という定点から、「価値観の切り替わり」を表現することを目的としています。
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