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喜悦旅游#10「忘れられない!蛸の味」〜北海道編8


 

 

 

宗谷丘陵で聞いた、盛田さんの不思議な話。

 

 臨死体験の時に見ていた風景と完全に一致する草原は、確かに天国とも言えるうつくしさ、静けさだった。

 

 その中で、現実のわたしたちは立ち尽くしている。あたりはすっかり暗くなった。お腹がグーッとなった。そうだ。ひたすら続く日本海沿いのオロロン・ラインで昼食を食いっぱぐれたから、今日はほとんど何も口にしていないのだ。

 

 日が完全に落ちる頃、わたしたちは稚内に向かった。

 

 繁華街の中心にある渋い居酒屋、「八や」さんだ。


 

 こちらはなんともメニューが豊富なお店。


 「地物の刺盛り」、「まいたけ天ぷら」、「北海道産アスパラ天ぷら」、「ホタテのフライ」などなど、食欲に任せて一気に頼んでしまう。

 

 そして、気になるメニューがひとつ。「タコの陶板焼き」だ!

 留萌で食べた「タコザンギ」(タコの唐揚げ)は、身がプリッとして相当美味しかった。陶板焼きでタコを食べるのは初めてだが、いったいどんな味わいなのだろう?

 

 乾杯のドリンクがすぐに運ばれてくる。盛田さんはノンアルコールビール。これから次の目的地、遠軽まで夜中の長距離運転が控えているのだ。つくづく、クレイジーなプランを立ててしまった。飲めない盛田さんには申し訳ないが、わたしは北海道でしか飲めないという、サッポロクラシックを、せっかくなのでいただいた。

 

 乾杯!

 

 おお、これは…なんとも美味しい!

 1日動いてクタクタの体に流れ込む、フレッシュなビール。最高の瞬間だ。

 

 間髪いれず、料理が次々と運ばれてくる。


 

 刺身たちの輝き!!

 これは、なんということだろう。ひとつひとつが、生命力に溢れてキラキラ。淡い優しい色なのに、存在感は色濃く全面に出るのだ。

 

 まずタコをいただく。なんというしなやかさ、強さ、甘み、旨み。こんなタコ食べたことが無い!そう断言できる味だ。あとで運ばれてくるであろう、陶板焼きに想いを馳せる。そのままで、すでにこんなに美味しいタコを、一体どう味わおうというのか?!期待がグッと高まってくる。

 

 そこにホタテのフライが到着。新鮮なホタテ盛りを前に、揚げたてホタテも味わおうという、なんとも罪深い目論見だ。ホッコリ、サクサク、肉厚のホタテは舌で味わう天国だ。生きながらにして味わう天国。うまいものをたらふく食べられる未来が待っていた。盛田さん、臨死体験から生還できて、命を味わえて良かったね、と密かに思った。

 

 一方その頃、目の前の盛田さんは、アスパラ天ぷらを夢中で食べている。熱いものは熱いうちに。これが大切。しかし目の前の刺身も、一刻も早く食べてくれと言わんばかりに心に迫る。

 

 熱い、冷たい、とろける、シャキシャキ、シュワッ、シコシコ。なんとも忙しい口中のオーケストラだ。

 

 それにしても、ひとつひとつのボリュームよ。小さめの盛りで来るかと思いきや、すべてのメニューが全力盛りでやってくる。机の上は料理で埋め尽くされ、一気に満艦飾のステージとなってしまった。

 

 華やかなテーブルに、満を持してやってきたのは、主役のタコ陶板焼きだ。


 

 先ほど食べて、美味しさを十分見せつけられた稚内の地物タコ。ごま油でマリネされ、塩と胡椒がパラリとかかっている。新鮮なネギが上に散らされ、目にもうつくしい。

 

 女将さん曰く、焼くのは両面、ほんの少しでいいとのこと。しっかり目で見て、身が少しだけ縮んできたらそれでOK。焼きすぎてはいけないそうだ。

 

 早速焼いてみる。

 

 あたたまった陶板の上で、一気にタコがチリチリチリっと縮んでいく。

 表面だけさっと炙った、ほとんど刺身の状態でいただくと…

 

 これは…


 

 「夢の味」だ!

 

 「夢の味」とは、ある時から使っていることばで、口にしただけで一気によろこびが広がる食べ物のことだ。食べ物は、いずれ身となる。夢の味を食べていると、自分の体が夢やよろこびに満たされ、生まれ変わると感じている。

 

 遠い遠いオホーツク海で生きていたタコが、水揚げされ、わたしの体となっていく。北海道を訪れることがなかったら、決して造られることのなかった血や細胞が、これからゆっくりと生まれていく。

 

 旅は、こうして実際に人生を変えていくものなのだ。

 

 それにしても本当に美味しいタコ。止まらない。炙っては食し、炙っては食し…胃袋はすっかり、夢の味で満たされてしまった!


 

 しかし、ここでまったりしているわけにはいかない。北海道最北端を再び経由して、道東の遠軽という町まで、今夜のうちに、なんとかたどり着かねばならないのだ。

 

 後ろ髪を引かれつつも、わたしたちは「八や」さんを後にした。

 すべての料理に驚かされたが、一番驚いたのはお会計だった。

 

 衝撃の安さ!

 

 盛田さんは、感嘆して言った。「これだったらさ、絶対東京の高級店で食べるより、飛行機乗って北海道来てさ、現地で地産地消の美味しいもの食べたほうがいいじゃん。この味や体験に勝るものはない。」まったく、同感だ。

 

 英気を養ったところで、さあ、遠軽に!

 

 この時点では、遠軽に向かうドライブが、旅で最大の珍道中になるとはつゆ知らず…

 

 わたしたちは、車に乗り込んだ。


 

株式会社RaymmaのWEBマガジン「喜悦旅游」は、伊地知奈々子の文・盛田諭史の写真という定点から、「価値観の切り替わり」を表現することを目的としています。


価値観の切り替わりは、個人を変える。

個人の小さな変化こそ、世界をダイナミックに変える原動力。


あなたを切り替える旅に、出てみませんか。

 

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