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喜悦旅游#11「夜を走る」〜北海道編9

更新日:2023年10月20日


 

 

 

 (文中に出てくる「ナイトクラブ顔負けの光」を発する標識の例。昼間は派手さを微塵も感じさせない)


 

 稚内繁華街の居酒屋「八や」さんで絶品料理を頂いて、つかの間の憩いを得たわたしたち。

 しかし、本番はこれから。北海道の先端を西から東へと横断し、今夜は遠軽町へと行かねばならないのだ。


 遠軽町は、翌日の目的地である北海道最東端、納沙布岬の手前にある。最北端から最東端に一気に進むのはいくらなんでも過酷すぎるので、土地勘の無いわたしが地図上で選んだ町だ。どうやって行けば良いのか全く見当がつかないので、ここからはナビ任せとなる。


 調べてみたら、全行程5時間23分の旅、まずは日本海側を遠別まで下り、そこから東に向けて山道を突っ切ってオホーツク海側に抜け、国道238号線をひたすら南下していくルートらしい。


 稚内を出発したのは21時頃。計算上は朝4時過ぎに着くということなのか。途方も無い旅路だ。

 

 よりによって、わたしはこの時免許不携帯だったので、運転を変わることができない。うっかり、神戸の店に忘れてきてしまったのだ。仮に免許があったとして、夜の山道をひた走る長距離運転にも正直自信はない。すべては、盛田さんの運転にかかっていた。


 しーんと静まり返った、北海道の夜道。

 

真っ暗かと思いきや、突然意外な光景が広がる。赤、緑…色とりどりの派手な光が、満ち溢れているではないか!これはおそらく、雪に中央線やサイドのラインが埋まってしまった場合、車が車線をはみ出したり、突っ込んだりしないためのサインなのだろう。それにしてもナイトクラブ顔負けの光が、延々と続いているのには驚いた。眠気対策にはありがたい。



 

(伊地知撮影。盛田さんは運転に集中しているため、この夜は全く撮影できず。)



 そんなことを考えていると、いきなり車が大きく揺れる。キツネが横切ったので、盛田さんが避けたのだ。キツネや鹿たちは、それを皮切りに続々登場した。夜の北海道では、よほど注意深く運転しなければならないと悟った。しかし、よく考えれば、わたしたちの方が、動物たちの生活圏である大自然にお邪魔しているのだ。静かな夜は、彼らのための時間である。彼らのリズムに合わせて人間が移動するのは、当然のことだろう。

 

 派手な光やキツネの往来に気を取られていたら、景色が変わった。どうやら、海沿いに来たらしい。

 

 あれ?

 

 …いや、そんなはずはない。え、ほんとうに?

 

 ナビの表示を見る。自分の時計を見る。車の時計も確認する。いくらなんでもこんなに早く、西から東を移動できるはずはない。しかし、現実的にわたしたちは、オホーツク海沿岸を走っていた。あっという間に、山道を横断してしまったのだ。

 

 そのあとはひたすら、刺激的な光線とキツネ、鹿、たまに猫との遭遇で時は過ぎた。ふたりとも(特にずっと運転している盛田さんは)疲れてほぼ無言だった。ただただ、一本道を走って、一刻も早く遠軽に着くことを願った。

 

 わたしは、いつの間にか眠ってしまった。


 (伊地知撮影。左側は、ひたすらオホーツク海が広がっている。)

 


 「着いたよ」

 

 

 盛田さんが起こしてくれた。時計を見る。驚いた。ナビが示した予定より、3時間も早く着いている。しかし、そんなことより一刻も早く、休みたいと思った。全ては、眠ってから、それからだ。もう何も考えられない。明日のことは全て明日考えることにして、わたしたちは解散した。長い、長いドライブだった。

 

 

 今、振り返って文章を書きながら思う。この夜のドライブは、北海道の旅の中で、最も不思議な時間だったのではないか。「ありえない」と思うようなことが起きた。「早く着きたい」というシンプルな願いが、そのまま具現化したような出来事。それを当たり前のように受け取った日だった。

 

 「一刻も早く」と願ったから、そうなった。ありえないのではなく、ありえた。ただ、そうだから、そう。

 

 日常の中では、こんなシンプルな奇跡が、そこらじゅうで起こっているのだろう。

 

 いにしえから言われてきた「求めよ、さらば与えられん」という言葉は、わたしたちのすぐそばにあるのだ。


 

 株式会社RaymmaのWEBマガジン「喜悦旅游」は、伊地知奈々子の文・盛田諭史の写真という定点から、「価値観の切り替わり」を表現することを目的としています。


価値観の切り替わりは、個人を変える。

個人の小さな変化こそ、世界をダイナミックに変える原動力。


あなたを切り替える旅に、出てみませんか。

 

 

 

 

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